2003年びわ湖毎日マラソン 2003年3月2日 皇子山陸上競技場発着

まさに、「ニューヒーロー誕生」というにふさわしいでしょう。中央大学の藤原正和選手が、なんと初マラソン日本最高&学生最高の2時間8分12秒で走りきり、堂々の日本人1位を獲得。パリへの切符を手にしました。
レース序盤は60人もの大集団が形成され、「だれがどこにいるのやら…」って状況でした。お目当ての選手がそのなかに入ってるかどうか、全然わからなくて、集団の後方を目を細めて見つめてみたり…。でも、もちろんそれでテレビの画面が鮮明になるわけはなく、気をもみながらカメラがとらえてくれるのを待っていました。
それでもまあ、見ているうちに、徐々に状況はつかめてきました。櫛部静二選手は先頭のすぐ後ろにいて、「今回は狙ってきたなー」という気配がありあり。意外にもまだ笑っていない佐藤敦之選手の姿も見えたし、小島兄弟も2人揃って集団の中ほどに位置を占めています。清水康次選手は、やはり集団の最後方。そして、清水選手が映ったとき、ようやく近くにいる藤原正和選手の存在を確認できて、私はやっと一安心。とりあえずは、トップグループにつけている…なんとか中間点まではこのまま行ってくれ〜と、心密かに(笑)エールを送りました。ただ、画面に出てきても、アナウンサーがまったく触れてくれないので、「全然期待されてないんやなー」とちょい悔しかったですけど…。
とまあ、最初はこんなふうだった先頭集団も、さすがに徐々にばらけていきました。後ろのほうが次第に長くなっていき、櫛の歯が欠けるように選手が落ちていきます。60人のグループも、すでに半分以下になっていました。このあたりで、「奇跡の復活なるか?」と思わせてくれていた櫛部選手が脱落。前のほうでがんばっていたのに、落ちるときはあっという間でした。
そして、中間点を過ぎたころから、小島兄弟の兄・宗幸選手が遅れ始めます。いい思い出のあるびわ湖で…との願いは、やはり叶いませんでした。この付近で、弟・忠幸選手は先頭近くまで上がってきたのですが、この選手は一見好調に見えても、なぜか後半落ちてしまうのが悪い癖。佐藤選手や、後方で待機していた清水選手が上がってくると、入れ替わるように後ろに下がり、少しして遅れていってしまったのでした。
そして、その少し前です。やっと「中央大学の藤原くんが上がってきましたね」という声が聞かれたのは。その言葉通り、トップ集団も10数人となった25km付近で、藤原選手はようやく正面から見える位置まで来ていました。もちろん、一般参加の選手では1人だけ。存在感は、徐々に大きくなってきていました。
それからも、1人落ち、2人落ち…というレースは続きます。30kmを通過した時点で、それまでは楽に走っていたように見えた国近選手が遅れ始め、先頭を引っぱっていたモネゲッティ選手もレースをやめます(だれかのペースメーカーだったのかな)。残ったのは外国人3人、日本人4人。日本人の顔ぶれは、清水選手、佐藤選手、浜野選手、藤原選手でした。清水選手の無駄のないフォームに比べると、藤原選手は左右にぶれるロスの多い動きに見えて、私は少し心配になりました。それでも、表情のほうはまだまだ余裕で、「もしかしたら…」という期待もほのかに芽生えてきていました。
少しして、佐藤選手が集団から少し離され、しかし歯を食いしばるようにしてすぐに追いつきます。トレードマークの微笑みが、引きつっているように見えました。33km地点を過ぎ、レースは終盤にさしかかろうとしていました。
そして、このあたりで突如、藤原選手の身体が大きく左右にぶれ始めます。腕の振りも、止まってしまったように見えました。「ここまでか…」私はそう思いました。それでも、よくここまでついてくれた。初マラソンでこれなら上々…。こんなふうに考えていたのです。あとはできるだけ落ち込みを少なくして、最後まで走ってくれることを願いました。
ところが、意外にも最初に落ちたのは、笑っているのかこわばっているのかわからないような顔をした、佐藤選手だったのでした。さっきはすぐに戻ってきたのですが、今度はその力は残っていないようでした。そして、その後すぐに浜野選手も下がっていきました。外国人選手も1人落ち、残るは外国人2人…コスゲイ選手とペーニャ選手、そして清水選手、藤原選手の4人になっていました。
藤原選手はさっきから、腕を下げたりしてリラックスを心がけていましたが、その甲斐あってか、腕振りが戻ってきているようでした。けれど、依然として苦しそうなのには違いなく、すぐ前を走る清水選手のほうが断然余裕の走りに見えました。「日本人1位は清水選手で決まり」私はそう確信しました。少なくとも、ここまでくればそれはだれの目にも明らか…だと思ったのです。
が、ここで驚くべきことが起こりました。必死についていくだけ…に見えた藤原選手が、それまでかけていたサングラスを上げたかと思うと、なんと、清水選手の前に出たのです。相変わらず表情は苦しそうで、身体もぶれています。が、そんな状態にもかかわらず、彼はスパートした外国人2人を追い始めたのです。いったいどこに、そんな力が残っていたのだろう…。不思議でした。だれよりもいっぱいいっぱいに見えた藤原選手が、だれよりも速く走っているのでした。
ほどなく、彼は2位のペーニャ選手に追いつきます。そして、前へ。まさか、2位に上がるつもりか…。私はほとんど驚愕の思いでレースを見つめていました。とにかく、藤原選手はひたすら上を目指すことしか考えていないようです。すでに、残り5kmは切っていました。本当に、これで最後までもつのか…。ずっと危ぶんでいた私も、だんだん「もたせるだろう」と思うようになっていました。
さすがに、ペーニャ選手の前に出たところで、力はほとんど使い果たしてしまったようでした。結局また抜き返され、その差は再びじりじりと広がっていきます。それでも、急激に落ち込むことはありませんでした。後ろからは清水選手が追ってきますが、差はつまりません。そして、ついに大詰め、競技場の中へと舞台は移されたのです。
1位から4位まではほぼ等間隔、100mほどの差が開いているようでした。もう、逆転はなさそうです。まずは、コスゲイ選手が余裕で入り、続いてペーニャ選手がゴール。そして藤原選手が直線にさしかかり…ゴール直前で、それまでの苦しそうな表情から一転笑顔になって、ゴールテープを切ったのでありました。
もう、なんつーか、ただただ「感動した!」の私でした。今の時代、忘れ去られたかのような「根性」という言葉。それがぴったりくる、藤原選手の走りでした。試合後のインタビューでは、相変わらず早口でたたみかけるようにしゃべってて、ちょっと微笑ましかったですけど(笑)。でも、「日本人トップは考えてなかった。外国人選手に勝とうと思っていた」というあたり、はるか先を見ているんだなーと、やっぱり感動してしまったのでした。
これで、世界選手権の代表に内定。福岡国際2位の尾方剛選手、東京国際2位の油谷繁選手に続いて3人目です。あとの2人は…うち1人は、この日4位の清水選手になるでしょうけど、最後の1人は「微笑み」佐藤選手か、東京国際3位の五十嵐選手か…。私としては、やっぱり全世界にあの微笑みを見せてほしいんですけどねー。
最後に、ほかの選手がどうなったか、少しだけ書いておきたいと思います。清水選手のあとに続いて藤田選手、浜野選手が入り、国近選手が8位。中間点付近で遅れてしまった小島宗幸選手は、粘って19位にとどまりましたが、弟の忠幸選手は途中棄権。一度遅れてしまうともうダメ…という悪い癖はやはりそのままでした。後輩(藤原選手)にあっさりと抜かれたら、アカンやん〜! 忠幸選手にも私はかなーり期待しているだけに、まだ終わってないと信じたいです。

【事前のみどころ】
日曜は、3大マラソンのひとつ「びわ湖毎日マラソン」が行われます。もちろん、世界陸上の選考レースに指定されているので、ここで2時間10分を切って日本人1位になれば、出場権を獲得することができます。アテネへの切符を掴むためにも、やはり世界陸上には出場しておきたいところ。だれが名乗りを上げるでしょうか? …というわけで、いつものごとく、私のみが注目する選手(世間的に注目されている選手とは、必ずしも一致せず)をゼッケン順に挙げてみたいと思います。
招待選手では、まずはベテラン・清水康次選手。いつも先頭集団の最後方でレースを進め、徐々に前のほうに上がってくる…というのが、清水選手の勝ちパターンです。アジア大会は調子が良くなくて、もうひとつの成績でしたが、今回はどうでしょうか? スピードがあまりないので、勝つとしたら競技場に入る前に1人になってると思います。
お次は、小島忠幸選手。私が応援する、兵庫県は西脇工出身の選手です。練習ではすごく強いらしいんですけど、マラソンとなると30km以降に不安あり。一時、ちょっと名前を聞かなくて「どうしたんだろう…」と思ってたんですが、最近は調子を取り戻しているとのこと。このレースに今後がかかってる…と言えなくもないので、マジでがんばってほしいです。
続いて佐藤敦之(あつし)選手。ここのところ、どのレースでも好調さを見せつけている選手です。しかし、なんといっても印象深いのは、その好成績よりもレース中の彼の表情なのです。なんと、あの苦しいレースの最中にも、佐藤選手はいつも微笑みをたたえて走ってるんですよね。笑ったほうがリラックスできる…とは聞いたことがあるんですが…。今回もきっと、笑いながら42.195kmを走りきってくれることでしょう。あ、もちろん超期待の選手でもあります、念のため。
それから櫛部静二選手。ずっとSBに所属していたのですが、結局活躍できず、現在は愛三工業というところに移籍し、コーチ兼任で走っています。で、最近、ものすごいペースであちこちのマラソンに出場してるんですけど、なぜかそんな状態にもかかわらず「走るたびに記録更新」という奇跡の?復活を見せているのです。自分で自由にやれるようになったのが、かえって良かったのかなー。想像でしかないですけど。あと、櫛部選手といえば、10年ちょい前の箱根駅伝で2区を走り、後半、棄権寸前のフラフラの状態になった…ということがあるんですね。なんか、そのイメージだけが強かったけど、今回はそれ以上に印象づけられるような走りをしてほしいですね。
それから、現役大学生からただ1人招待選手となった松下龍治選手。社会人や外国選手に混じって、どこまでやれるでしょうか…?
一般参加選手にも、いい選手はけっこう揃ってます。2時間8分台のベスト記録を持つ小島宗幸選手(忠幸選手の兄)。過去にこのびわ湖で、スペインのフィス選手を振り切って優勝したこともある(たぶん、です。記憶が定かでないんですけど)ので、ここで復活してほしいです。
そして最後は、私の最大の注目選手、中央大学の藤原正和選手。箱根のときにさんざん「注目〜!」と書いていたので、ご記憶の方も多いと思いますが…。今年の箱根、花の二区で区間賞をとった選手です。10000mのジュニア日本記録保持者でもあります。正直なところ、どのくらいマラソンに適性があるのかは未知数ですが、勝ち負けはともかく、明るい将来が見えるような走りであってくれたらなーと思ってます。

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