2003年日本陸上競技選手権大会 2003年6月6日〜8日 横浜国際総合競技場

■6月6日(初日)
まずは楽しみにしていた女子10000m決勝です。ケガの状況が気になっていた福士加代子選手でしたが、そんな心配をものともせず!って感じでしたねー。中盤まではずっと渋井陽子選手が引っぱっていたのですが、最初のハイペースが維持できずにペースダウン。遅いペースが少しだけ続いてから、「もうがまんできない」って感じで、福士選手がスッと前に出ました。まだレースを3分の1以上残していましたが、それでも最後までもつという自信があったんでしょうねー。1周のラップを5秒以上上げるという、外国選手並みのスピードの切りかえを見せて、後続グループをぐんぐん引き離していきます。さすがにそのスピードをずっと維持することはできませんでしたが、それでもほかの選手を寄せつけませんでした。ぶっちぎりの勝利でしたね。一時は出場も危うかったとは思えません。レース後のインタビューは本当にうれしそうで、「パリジェンヌをめざす」?と満面笑顔で話してくれました。
2着には、一時は5番目以下に落ちたものの、粘って挽回した田中めぐみ選手が入り、中盤までレースを作った渋井選手は6着(外国選手を除いた日本選手権の順位は5位)に落ちました。ただ、世界陸上の代表に関しては、A標準を突破している必要があるので(この場合、B標準では意味がないのです)、突破した選手のなかでは三番目に入っている渋井選手も出られるのではないかなーと思いますが。あと、さすがだと思ったのが、マラソン代表に決まっている野口みずき選手ですね。大阪ではスピード感たっぷりのマラソンを見せてくれましたが、ここでも最後まで前のほうにつけて、堂々5着(4位)に入りました。世界陸上でもスピードマラソンを見せてほしいですね。
女子棒高跳びは、小野真澄選手が4m21の日本新で優勝。とはいっても、彼女は室内ではすでに4m30を跳んでいるので、屋外の記録も早くそれに追いついてほしいです。普通、室内のほうが記録は悪くなるものなんですけどね。小野選手と、100mハードルの金沢イボンヌ選手、やり投げの三宅貴子選手は、すでにB標準を突破しているため、この優勝で世界選手権の代表を決めました。
男子110mハードルは、ベテランの谷川聡選手が優勝。200mの末續慎吾選手と400mハードルの為末大選手は、順当に決勝に進んでいます。末續選手と為末選手に関しては、準決勝くらいテレビに映してくれると思っていたのに、何にも触れてくれなかったのが残念! ちなみに末續選手は20秒58で予選1組1着となっているので、まずはいい感じの出だしかなと思います。あと、宮崎久選手も20秒53と好記録をマークしてA標準を突破。土曜の決勝は、たっぷりと見たいですねー。

【初日のみどころ】
いよいよ、陸上の日本選手権が始まります。初日から、男子では200mの予選&準決勝、110mハードルの予選&決勝、400mハードルの予選&準決勝、女子のほうは100mの予選&準決勝、10000mの決勝などなど、注目種目が目白押し! 特に男子200mと女子10000mは、絶対に見逃せません。
男子200mは、当然ながら末續慎吾選手。最近は100m10秒切りのほうが注目されてますけど、専門は一応この200mです。先輩・伊東浩司選手の持っている日本記録、20秒16は昨年あたりから「いつ破ってもおかしくない」ところまできています。余裕を持って走れる準決勝あたりで、記録を狙ってほしいところですね。
また、女子10000mでは、なんとかケガからの復帰がまにあった(と思う)、福士加代子選手と渋井陽子選手が対決します。ただ、どちらも故障上がりということで、一抹の不安は残ります。なんせ、女子長距離のトップがこぞって出場するだけに、優勝のチャンスのある選手は多いですからねー。
ちなみにテレビ中継は、深夜の録画になります。NHK総合で1:50〜2:50。次の日は土曜だし、夜更かししても大丈夫な方は、ぜひご覧になってみてください〜。

■6月7日(2日目)
ついに出た!という感じの、末續慎吾選手、男子200m日本新記録です! いやぁ〜、久々に興奮するレースを見せてもらいましたねー。
陸上の日本選手権第2日、この日の注目選手bPは最初っから末續選手でした。普通に走れば優勝はかたい男子200m、期待するのはもう日本新っきゃない!ですよね。スタートは、いつもどおり低い姿勢(というか「頭を下げて」)で飛び出して、コーナーを走っている時点で、次々にアウトコースの選手を追い抜いていきます。直線に出たときは、すでにダントツのトップ。前半100mに要したタイムは10秒2くらいで、このあたりから、がぜん記録に向けての期待が高まってきます。そして、直線でもそのスピードは衰えず。前半からあれだけ飛ばしていたにもかかわらず、です。ゴール近くになると、テレビ画面の右上に表示されるタイムと末續選手の走りを交互に見てましたね。ゴールした瞬間は、一瞬、これは19秒台も出たか!?って思ったんですが、ゴール地点のタイマーに表示されたのは、わずかに届かない20秒03。でも、堂々の日本新でした。
末續選手があまりにもうれしそうにガッツポーズを繰り返してたので、こちらまでうれしくなってきましたよ(笑)。観客席に向かって手を振るときも、「やった〜!」って雰囲気がにじみ出てましたよね。ただ、インタビューを受けているときは、「世界陸上のことは、まだあまり考えてない」「100が残ってる」と、感情を抑えてるみたいにも見えましたけど。でも、高野コーチとのかたい握手に、やっぱにじみ出てたなー。
それにしても、かなり前から「日本新は目前」と書き続けてきた私でさえ、この大会で20秒03まで行くとは思っていませんでした。だって、シドニー五輪の金メダルのタイムって、20秒09ですよ。ついでに、2年前の世界陸上は20秒04。もちろん単純比較できないのはわかってるけど、それにしたって末續選手の記録は金メダルのタイムを上回ってるんですよ! まあ一時、マイケル・ジョンソン選手やフレデリクス選手、ボルドン選手などが19秒台で争ってたのからすると、最近はちょっと低調だったのは事実ですけど、それでもやっぱ凄い。しかも、今のところ今季の世界最高タイムらしいですからねー。しかし、「陸上男子短距離で、日本人が金メダルをとってもおかしくないタイムで走る」なんて、ちょっと前までだれも思ってなかったはず。正直、私だってそこまでは考えてなかったです。
これはもう、明日の100m決勝、期待するっきゃないですね。無敵の200mとはちがって、ここには朝原選手がいますから、2人で競り合って2人とも記録を出してくれたら、もういうことないです。
そうそう蛇足ですが、彼はあくまで「末續慎吾」です。「末続慎吾」は正確じゃありません。念のため(←どうでもいいって?)。
それから、男子400mハードルでは為末大選手が優勝。ただ、レース内容には多少不安が残ります。為末選手のレースは、前半から飛ばしていって後半できるだけ持ちこたえる…というのが特徴なんですが、ラストは後ろの選手に追い込まれて「あわや」というところだったんですよね。大丈夫かなぁ…。まあ、2年前の世界陸上で銅メダルをとったときも、5〜6月ごろってあまり調子よくなかったですからね。今回も、本番にピークを持ってってくれるものと期待しておきます。
あと、女子走り幅跳びは印象に残りましたね。池田久美子選手が6回目で6m64を跳んで、世界陸上への最後のチャンスでB標準を突破。しかも、直後に跳んだ花岡選手の記録は6m63。わずか1cmの差で、池田選手が日本選手権優勝&世界陸上の代表を手にしました。決まった直後に池田選手が涙ぐんでたのを見て、なんかじーんときてしまいましたねー。でも、欲をいえば、池田選手も花岡選手も両方ともA標準を突破して、2人で世界陸上に行ってほしかったなぁ…。
女子砲丸投げの森千夏選手、男子三段跳びの杉林孝法選手、男子3000m障害の岩水嘉孝選手も、B標準突破&日本選手権優勝の条件を満たして、世界陸上への派遣が決まりました。特に森千夏選手は、たしかこの種目では日本人初の代表…のはず。うーん、がんばってほしいです。
あとの種目は…女子100mでは、新井初佳選手が6連覇を達成。最初のスタートはフライングでやり直しになったんですけど、新井選手はそちらのほうがいい飛び出しができてたんですよねー。できればあのまま走らせてあげたかった! しかし、年々太さを増していく彼女の太ももに、強さのヒミツを見たような気がしましたわ(笑)。
最後に、とっても期待はずれだったのが男子10000mでした。日本人選手はまだだれもA標準を突破してなくて、Bを突破してる選手で出場したのは3人。その3人のなかのだれかが優勝するか、それ以外の選手なら、このレースで標準記録を突破して優勝するか…。もちろん、A標準を突破してれば、複数(3人まで)が代表になれますが、今のレベルからいってそれは難しそうだし、とにかくほとんどの選手にとっては記録を狙っていくしかない状況だった…はずなんですよね。なのに、最初から最後まで先頭を引っぱったのは、外国人のカーニー選手。しかも、そのペースが、標準記録を上回るにはキビシイものだったのに、だれも前に出ようとはしないんです。
女子のレースでは、渋井選手が最初からハイペースで引っぱったり、福士選手が途中でものすごいスパートを見せたりと、とっても見応えのあるレースだったのに、それにくらべて男子のこの消極さはなに?って感じです。これはもう、女子とは意識が違いすぎですよね。世界からどんどん離されていくのも道理ですよ。日本代表、B標準を切ってるなかから、だれか送るのかなー? それとも、代表なし!にしちゃうのかしら? 明日の5000mになると、さらに標準記録を突破するのは難しいんですけどねー。
あ、でも藤田敦史選手が、終始前のほうでレースを進めてたのは良かったですね。彼の場合、世界陸上じゃなくて冬のマラソンをにらんでるわけなので…スピードがかなりついてるなーと…。それに比べると、藤原選手はまだまだスピード不足かしら? どちらにしても、マラソンのためになる10000mのレースであってくれればいいですねー。

【2日目のみどころ】
さすがに土曜は、注目種目が目白押しです。男子200m決勝で末續選手の日本新はなるか? 男子400mハードルの為末選手は? あと、男子10000mは、A標準突破&世界陸上代表をめざす有力選手がひしめいてて、見応えがありそうです。標準記録を突破していない選手のほうが圧倒的に多いので、それを狙って最初からかなりハイペースで推移しそうですね。

★6月8日(最終日)
残念ながら男子100mの9秒台突入はなりませんでした。さすがの末續選手も、前日に速く走りすぎましたねー。今日は足のつけ根(だったかな?)に違和感があったとか。そういえば1998年に伊東浩司さんが10秒00を出したときも、「そのあと足がケイレンした」って言ってたような記憶があります。今までとは桁違いの力を発揮したときって、やっぱ人間の身体には思いもよらぬ負担がかかるんでしょうね。
今日のレースは、スタートから末續選手が出てましたね。以前はあまりスタートが得意だとは思わなかったのですが、最近は本当にうまくなってきました。最初の30mあたりで「独走態勢」を築いてしまいましたね。ただ、後半が思ったほど伸びなかったのは、やはり完調じゃなかったからでしょうか。終盤はむしろ、2位の朝原選手が追い込んだようなイメージがあります。朝原選手の調子がもっとよかったら、逆転してたかも…。まあ、予選ではとっても調子が悪かったみたいな朝原選手も、決勝できっちり2位に入ってくるあたり「ベテランだなー」と思いますね。
しかし、本当に世界陸上が楽しみになってきました。末續選手はもちろんのこと、朝原選手も絶対に修正してくると思うし…。あと、この2人が2走と4走になる(ほとんど決まってます)4×100mリレーにも期待大ですね。
ハンマー投げの室伏広治選手も、期待どおり…ある意味期待以上の投擲を見せてくれました。テレビ中継でも言ってましたけど、最後の6投目で記録を伸ばすことができたんですよね。今までの室伏選手だと、だいたい2投目と5投目にいい記録が出てたような気がします。最後の投擲は、悪くはないけど伸びることもない…って感じだったんですね。ところがこの日は、先日の大阪グランプリに続いて、6投目で最高記録。最後の最後まで伸ばし続けられるって、凄く大きいです。前回の世界陸上では、それができなくて負けちゃいましたから。
特に今日は1回目の投擲が78mと、今季の室伏選手にしては「悪い」記録(本当は全然そうじゃないんだけど、悪く思えてしまう…)。それを見て、「今日は80mちょいで終わりかなー」と思ったのですが、2投目でしっかり修正(これが大きい!)。あとはオール80m越えで、雄叫びも連発でした。最後、日本記録のラインの上に落ちたのは、グランプリのときと同じで、本当に「惜しい〜」って感じでしたねー。
今季は、日本新こそ出ていないけど、この「高レベル安定」ぶりはすさまじいものがあります。世界中のどこにも、こんなに80m台を連発できる人なんていないですよ〜。室伏選手については、もう「凄い」としかいえないです。
続いて、印象に残ったレースをざっとあげていきます。女子400mハードルで日本新を出して優勝した吉田真希子選手。先日のグランプリでも日本新を出して絶好調だった彼女ですが、この日はさらに修正してきました。前半の入りは少し抑えめで、「記録は狙ってないのかな?」と思ったら、全然そんなことなかったです。たぶんこの前は、前半が速すぎたんですね。で、後半バテたので、今回は少し抑えた…と。それが功を奏して、後半もスピードが落ちずに、またまた日本記録を更新。しかも、念願の55秒台に突入…と、いいことずくめのレースでした。一口に「後半バテないために前半は抑える」とはいっても、なかなか思いどおりにいくもんじゃないと思うし…。世界陸上ではさらに記録を更新してほしいものです。
棒高跳びの澤野大地選手も、5m75の日本新で優勝。グランプリでもいい感じで跳べていたのですが、さらに調子を上げてきました。5m75を本番でも跳べれば、充分決勝に進出できますからねー。
それから女子200mで優勝した新井初佳選手。優勝したにもかかわらず、ゴールの瞬間タイムを見て顔をしかめてました。今年は200mに関してはほとんどやってなかったみたいですからね。でも、100と200の両方で6連覇なんて、凄すぎ! なんとか南部記念までに、B標準を突破できればいいのですが…。
男子5000mは、だれも記録を狙いにいかないので、かなりイライラしました。標準記録を突破していたのは世界陸上に出るつもりのない高岡選手だけなので、ほかの選手は当然記録を狙ってくるだろう…と思ってたんですけどねー。いくら「勝負に徹する」といっても、あまりの消極的な走りに悲しくなってしまいました。一応、徳本選手が優勝しましたけど…。とりあえずはこれから、標準記録の突破をめざしてほしいもんです。
女子5000mのほうはというと…。渋井選手も、ここではなんとかしたかったと思うのですが、残念ながら後半少し遅れてしまいました。故障の影響…でしょうね。レースに復帰したのはけっこう早かったのですが、その後は調子が上がりきっていないよう。優勝したのは小崎まり選手で、惜しくもマラソン代表は逃したんですけど(補欠です)、ラスト近くになっても先頭に1人ついていくあたり、さすがに力がついてるなーと思わせられました。ただ、スパートではさすがに、外国人選手にはかないませんでしたが。あと、コースどりが良くなくて、いったんは前に出ようとしたのに出られなかったのも惜しかったです。しかし、10000mでも思ったのですが、どう考えても女子選手のほうが「根性」ありますよね…。

【最終日のみどころ】
最終日の注目種目は、なんてったって男子100m! 末續選手、朝原選手、はたしてどちらが勝つでしょうか。でもって、日本新は出るでしょうか。続いて、忘れちゃいけない男子ハンマー投げ。いわずとしれた室伏広治選手が登場します。優勝はまちがいないし、期待は記録のみです! あとは、今日の予選で見事にA標準突破を果たした男子400m・佐藤光浩選手の、決勝のレースは楽しみ。記録を伸ばし続けている400mハードルの吉田真希子選手も、できればまた日本新を出してほしいし、ほかには女子走り高跳び、男女の5000m、新井初佳選手の6連覇がかかる女子200m、男子走り幅跳びなどなど…。私としては、ひとつでも多くの種目で標準記録を突破してもらって、1人でも多く世界陸上に行ってほしいですねー。

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