2004年大阪国際女子マラソン 2004年1月25日 長居陸上競技場発着

大阪国際女子マラソンは、マラソン3回目、世界選手権4位の坂本直子選手が2時間25分29秒で優勝。アテネへの切符を、ぐっと手元へ引き寄せました。2位は千葉真子選手、3位は大南博美選手でした。
レースは開始から超スローペースで進みました。最初の5kmは18分16秒。有力選手が揃っていることから、超ハイペースもスローペースもありうる…とは思っていましたが、さすがに18分もかかるとは予想していませんでした。こうなると、2位以下で選ばれるのはタイム的に無理。「優勝しかない」状況になっていきます。
その後は少しペースも上がりましたが、それでも17分台。10kmの給水点で渋井陽子選手が少しスピードを上げ、ここでようやく先頭集団が10人あまりに絞られます。
開始直後から先頭に立っていたのは、ベテラン弘山晴美選手。新鋭・大越一恵選手もそのすぐ横につけています。渋井選手は2列目からたまに先頭に出てくる…といった感じで、どうも落ち着きのない印象を受けました。坂本選手は集団の中ほど、それほど目立たない位置にいて、千葉真子選手は今回も後方待機、初マラソンの小鳥田貴子選手は最後方につけていました。
13km付近で坂本選手が前へ出ましたが、先頭に立ってペースを上げるまではいかず、あいかわらずペースは遅いまま。集団は横に広がり、じれったいような感じに見えました。もちろん、集団の中で多少の動きはありましたが、先頭に立って引っぱろうとする選手は出てこず、そのまま中間点を過ぎて、勝負は後半へと持ち越されました。
25km地点が過ぎ、勝負どころの大阪城が近づいてきました。このあたりは上町台地に位置していて、平坦な大阪のコースの中では数少ない、急激なアップダウンがある箇所です(歩いててもけっこう疲れます)。先頭集団からは外国選手がこぼれていったくらいで、顔ぶれはほとんど変わっていません。しかし、選手は少しずつ動きを見せはじめていました。大越選手と渋井選手が代わる代わる先頭に立ち、千葉選手も位置を徐々に前へと位置を上げていきます。膠着状態がこわれる準備は、整っていました。
そして27km手前。ここで千葉選手がすっと先頭に出て、そして一気にペースを上げたのです。集団は、みるみるうちにばらけていきました。弘山選手が遅れ、小幡佳代子選手も健闘むなしく後退。大越選手も最初は千葉選手の横でがんばっていたのですが、さすがに無理をしていたのか、いったん遅れると急激に離れていきました。千葉選手につけたのは、坂本選手、渋井選手、大南博美選手の3人だけ。10人以上の集団は、あっというまに4人に絞られたのです。
千葉選手、坂本選手のトップ争いは予想どおりのことでした。ただ、千葉選手のスパートは、かなり早かったように思いました。もう少し後方で待機するのでは…と見ていたからです。坂本選手のほうは、かなり安定した走りで、好調さを裏づけていました。渋井選手は先頭についてはいたものの、前半から無駄な動きが目立ち、この時点ですでに疲れているようでした。大南選手は予想外の(失礼!)健闘で、後半もたないだろうとの予測を見事に裏切っていました。
そして30km地点。給水点を過ぎたところで、先頭にいた坂本選手がスパートしたのです。それは、さっきの千葉選手のよりもずっと強烈で、長いスパートでした。渋井選手がみるみるうちに遅れていきます。彼女には、もう余力は残っていないようでした。千葉選手と大南選手は、最初はなんとかつこうとしていたのですが、坂本選手はまったくスピードをゆるめません。2人の粘りも、もはや限界にきていました。
坂本選手は、そのまま千葉選手と大南選手をどんどん離していきました。テレビ画面に映し出される2人の姿も、徐々に小さくなっていきます。圧倒的なスピードでした。
35km地点を過ぎたとき、2位との差は1分近くにまで開いていました。この5kmを、彼女はなんと15分47秒で走り抜けたのです。あのラドクリフ選手が世界記録を出したときでさえ、ここまでのラップを刻むことはできませんでした。もちろん、前半のスローペースもあるし、そのまま比べても意味はないかもしれません。しかし、それでも15分47秒は驚異でした。
後続では、いったんは3位に落ちた千葉選手が2位に上がっていましたが、さすがに今回は「二度あることは三度ある」とはいきませんでした。先頭との差は広がるばかりで、3位の大南選手にも決定的な差をつけることができません。渋井選手は急激に失速し、弘山選手らにも抜かれて、ほとんどジョギングのような状態になっていました。
最後まで坂本選手は、ゆうゆうと走りつづけました。うしろからだれかが来る心配は皆無でした。少しは千葉選手の驚異を感じていたかもしれませんが、現実には離れる一方だったのです。
ゴール手前、坂本選手は手をいっぱいに広げ…。そして、バンザイともガッツポーズともとれるような格好で、ゴールを駆け抜けました。
昨年のこの大会で彗星のように現れ、世界陸上で4位入賞を果たし、そして初マラソンからわずか1年でここまでの成長をとげた…。今回のインパクトは、高橋尚子選手が初めて日本最高を出したときの、名古屋のレースにも劣らないものがありました。高橋選手の次に日本のトップに立つのは坂本選手だ…。そう確信させてくれた今回のレースでした。
そして、代表切符を巡る争いに敗れた選手たちにふれるなら…。
2位の千葉選手は、最後は「意地」を見せてくれましたが、どうやら調整段階で、いささかの失敗があったようでした。彼女も五輪で充分勝負できる選手なだけに、ここでトップから大きく遅れた2位に終わってしまったのは残念でした。
3位の大南選手の粘りは収穫で、これまでの「後半弱い」という認識は改めようと思いました。4位に入った那須川瑞穂選手は、千葉選手と同じく小出門下生なのですが、最後にここまで上げてこられたことに将来性を感じました。弘山選手も遅れはじめてから粘りを見せ、5位に入ったのはさすがでした。
初マラソンの小鳥田貴子選手は8位で、初めてだからしかたがないことかもしれませんが、マラソンでも「ついていくだけ」のレースに終始して、少しがっくりさせられました。同じく初マラソンの大越一恵選手は13位に終わりましたが、少なくとも収穫は大越選手のほうがあったような気がします。
優勝候補の一角・渋井選手は最終的に9位まで順位を下げました。「ペースが遅すぎた」そうですが、これに対応できないところに、今の彼女の限界があるように思いました。おそらくは、彼女の望むハイペースになったとしても、勝つことはできなかったでしょう。風邪をひいていたそうですが、少なくとも昨年の不調はまだ脱しきっていないのではないでしょうか。
…とまあ、こうして大阪国際女子マラソンは終わったわけですが…。2枚目の切符を坂本選手がほぼ手中にしたのは、だれもが認めるところです。そして3枚目には、今のところ高橋尚子選手が手をかけた状態です。はっきりいって、名古屋組はかなり厳しいでしょう。もちろん、まだすべて決まったわけではないのですが…。とりあえずは、名古屋の結果を待つことにしましょう。

【事前のみどころ】
日曜はこの冬最大の注目レース、大阪国際女子マラソンが行われます。今さら私が取り上げなくても、情報はあふれかえってますよねー。それでも一応、私的注目点を書いておくなら…。
その1 千葉選手vs坂本選手の次なる勝負は? 昨年の大阪、夏の世界陸上は、同じようなレース展開になりましたが、第三弾は果たしてどうなるでしょうか。
その2 昨年春から調子の上がりきっていない渋井陽子選手が、どのくらい戻してきているでしょうか。あと、後半失速するクセは、少しでも改善されたでしょうか。
その3 ベテラン弘山選手は、全盛時の何割くらいの力を残しているでしょうか。
その4 駅伝やトラックでおなじみの小鳥田貴子選手ですが、フルマラソンへの適性はあるでしょうか。スピードはそこそこあるんだけど、後ろからついていくレースが多いので、なんとなく歯がゆさを感じるんですよね。まあ、今回はたしか初マラソンのはずだし、最初から前に立つことはないでしょうけど。
その5 同じく初マラソンの大越一恵選手も、楽しみな存在。ロードへの適性はありそうですが…。
とにかく、どこをとっても見どころ満載。目の離せないレースになること疑いなし!です。

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