2004年名古屋国際女子マラソン 2004年1月11日 瑞穂公園陸上競技場発着

名古屋国際女子マラソンは、土佐礼子選手の優勝で幕を閉じました。なんというか、意外ではあるけれど、反面、順当な結果かなーと思ったりします。ケガさえなければ、このメンバーの中では群を抜いた実力を持っているのは、だれもが認めるところですからねー。ただ、故障、故障でここ2年レースに出ていないのと、2か月ほど前にまた右のかかとを傷めたということで、さすがに今回はちょっと無理なのではないかと思っていました。それが、故障の影響をほとんど感じさせないレースでしたね。
逆に、私がこのレースの「本命」だと思っていた大南敬美選手のケガのほうが、予想以上に影響が出たようです。万全ではない…とは聞いていましたが、練習はこなせていたらしいので、なんとか勝てるんじゃないかと考えていたのですが…。少なくとも、30km以上の距離が踏めてない土佐選手よりは、走れると思ったのです。
ところが、実際は完全に正反対でした。土佐選手が序盤からたびたび先頭に立ってレースを引っぱったのに対し、大南選手はだんだんと集団の後方に下がっていきます。どちらかというと、前のほうでレースを進めることが多い彼女にしては、めずらしいことでした。しかも20km地点が近づいてくるころには、最後方にまで位置を下げてしまいます。結果を知ってからレースを見たので、よけいそう思うのかもしれませんが、それはやはり「後方でじっくり待機」しているようではありませんでした。
スローペースで始まったレースは、5kmごとのラップタイムで見てみると、25kmまではそれほど変動することはありませんでした。17分台前半の落ち着いたラップを刻みながら、レースはたんたんと進んでいきます。気温は多少高めでしたが、名古屋につきものの風もなく、三つの選考会のなかでは最高のコンディションに恵まれたといっていいでしょう。また、高橋尚子選手が自ら作りだしたハイペースによって自滅した東京、牽制しあうあまり超スローペースとなり、調子を狂わせてしまった選手も出た大阪とは違って、17分台前半のラップはまさに「ちょうど良い」速さだったのではないでしょうか。
それでも、ずっと先頭グループを形成していた10人ほどの選手たちは、徐々にばらけ始めていました。23kmでは有力選手の1人、橋本康子選手が後退していきます。先頭に立っているのは土佐選手。ただ、25kmまではそれほどペースアップしたような走りではありませんでした。
様相が変わったのは、25kmの給水点を過ぎたあたりでした。土佐選手が、ぐっとスピードを上げたのです。その時点で7人いた先頭集団から、プロコプツカ選手(ラトビア)、村田史選手があっというまにこぼれ落ちていきました。ほかの選手は土佐選手につきましたが、もはやひとかたまりの集団ではなく、土佐選手、田中選手、大山美樹選手、藤川亜希選手、大南選手の5人が、縦に並ぶ形になっていました。ほどなく、今度は田中めぐみ選手が先頭に立ちます。集団を引っぱる…というよりは、明らかに引き離そうとしている感じでした。
そのスピードに耐えきれなかったのでしょうか。ここまでずっと集団の後方で粘っていた大南選手が遅れだしました。彼女は歯を食いしばり、なんとかついていこうとします。が、前との距離は徐々に開いていくばかり。さらには藤川亜希選手、30kmすぎには初マラソンながら健闘を見せていた大山選手が遅れ、先頭はここで、土佐選手と田中選手の2人に絞られたのです。
それから少しのあいだは併走が続きましたが、それはほんの1、2kmにすぎませんでした。32kmの坂のあたりで、田中選手が前に出たのです。あとで田中選手は、「土佐選手の息づかいが荒くなったから」と、このときスパートした理由を語りました。その言葉どおり、土佐選手はじりじりと離されていきました。そのまま35kmを通過し、「これはもう決まり?」と、観戦していたほとんどの人は思ったのではないでしょうか。
けれど、たぶん田中選手のスパートは、少しだけ早すぎたのでした。5000mや10000mでは日本トップクラスの実力を持つ田中選手ですが、マラソンとなるとスタミナのなさばかりが目立っていました。最後まで先頭グループにつけていれば、スピードでは有利…といわれながら、実際は勝負のときまで持ちこたえることができずにいました。ただ、今回は今までになく非常にいい練習ができたとのこと。だから、その調子の良さから、ここでスパートしてもゴールまで行ける…と思ったのでしょうか。そのあたりが、マラソン経験の少ない田中選手のネックになったのかもしれません。スタミナが切れかかると、快調に見えた彼女のスピードはがくんと鈍り、それとともに、うしろで粘る土佐選手の姿がどんどん大きくなってきたのです。
逆転劇はあまりにあっけないものでした。残り5kmで土佐選手が追いついたかと思うと、並ぶ間もなく前に出て、一気に田中選手を突き放しにかかります。差はみるみるうちに開いていきました。今度こそ、勝負は決したのです。
土佐選手の粘りと執念、そしてなによりも彼女の「マラソンという種目への適性」を強く感じました。土佐選手はまぎれもなく、「マラソンで」最も自分の力を発揮できる選手でした。万全な準備はできなかったにもかかわらず、要所要所で先頭に出て、自分の走りやすいペースに持っていき、結果として2時間23分57秒の好タイムを記録することができたのです。
それからまた、田中選手の今後も楽しみになりました。後半の失速はかなり改善されて2時間24分47秒の自己ベストで走れたし、積極的なレース展開も印象の良いものでした。最後は土佐選手に抜かれてしまいましたけど、この経験は次のレースにつながるんじゃないでしょうか。
3位の藤川選手も、企業から離れても力は落ちていないこと証明してくれたし、初マラソンで4位に入った大山選手も楽しみな選手の1人となりました。
最初は「有力選手が少ない」などと思っていた今回の名古屋でしたが、充分な見応えを提供してくれた、後味の良いレースになったのでした。

【事前のみどころ】
日曜は、名古屋国際女子マラソンが行われます。4年ごとに、必ずといっていいほど巷の話題となってくれる、女子の代表選考ですが、とりあえずはこのレースが終わればすべて決まります。
ただ、名古屋の出場者には、かなりの好タイムが求められているようで、選手は大変ですよねー。「勝っても記録が良くなきゃ…」みたいな感じで言われてますから。最初からだれかが飛ばすと、おもしろいかな。つーか、牽制しあってたら、その時点でアテネはアウト!になってしまいそうです。
優勝候補最右翼は、やはり大南敬美選手かなー。土佐礼子選手は、故障続きでかなり苦しそう。あとは橋本康子選手、田中めぐみ選手も直前の会見に出てましたけど、好記録を出すには地力が足りないんじゃないかなーと思ってみたり。それから、年末に旭化成を退社した藤川亜希選手が出てくるので、ちゃんと練習ができているのかどうか、見てみたいです。彼女の場合、トラックで代表になる可能性も充分にありますから。
ちょっと残念なのは、堀江知佳選手(小出門下生)の欠場かな。「地を這う」ような、かなりの省エネ走法を見せてくれる選手で、おもしろい存在になりそうだったんですけどねー。

 トップページ夏の競技−陸上競技観戦記2004年名古屋国際女子マラソン 「スポーツ観戦記」トップページへ